論文「互換性に耳を澄ます」

 日本ポピュラー音楽学会が刊行する『ポピュラー音楽研究』第28号に論文「互換性に耳を澄ます ── 初期DTMにおける聴覚的リテラシ」が掲載されました。学会の会計年度の都合で2024年刊行となっていますが、実際には春過ぎに手元に届きました。オンラインで読めるようになるまでにも今後結構な時間を要すると思われるため1、とりあえず要旨を抜粋しておきます。

本稿では、1990年代前半の日本で「デスクトップ・ミュージック(DTM)」という名称で呼ばれるようになった音楽実践において、パソコンとシンセサイザ、音楽制作ソフトウェアを使いこなす独特なミュージシャンシップが形成されたことを論じる。日本製シーケンスソフトの時間あたりの分解能は欧米製のそれに比べて10分の1だったが、DTMユーザはハードウェア/ソフトウェアの互換性という観点からその制約を合理化した。そしてDTMユーザの間では、互換性を優先して制約の中で音楽を制作すべきであるという規範が生じた。互換性はユーザ同士のコミュニケーションを可能にすると同時に、音楽的詳細を聴き取る聴覚的リテラシを構築するための枠組としても作用した。

 「DTM」という言葉が出現した当時、こんにちでそう呼ばれるものとは大きく異なる音楽制作環境があったことに目を向け、そのユーザの耳には音がどのように聞こえていたのかに焦点を当てて論じています。ご希望の方には抜き刷りを差し上げますので、お気軽にお問い合わせください。

 

notes

  1. J-STAGEでは創刊号から第11号までと第24号・第25号のみがpdf公開されているという、何とも中途半端な状態になってしまっており、ここ数年分のオンライン化もまだ目処が立っていないらしい……。

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